「次世代システムの回路設計にFPGAを導入したいが、適切なコストでもっと性能の高いプロセッサを採用したい」――こうした設計者のニーズに応えるFPGA製品をアルテラが発表した。このFPGAは、デュアルコア・プロセッサ「ARM Cortex-A9 MPCore」をハードウェアIPとして実装しており、より高機能なSoCを実現することができる。本稿では、最新SoC FPGAの概要について解説する。

Cortex-A9 MPCoreをハードIPで実装

 組み込みシステムの設計者は、競争力のある製品を、タイミングよく市場に投入していくことが強く求められるようになった。このために、設計の柔軟性に優れたFPGAをシステム設計に適応していくケースが増えている。しかも、システム・レベルの機能をワンチップで実現するために、プロセッサ・コアを実装したSoC FPGAの設計比率が高まっている(参考記事:「システム設計者の選択肢を広げるSoC FPGA(前編)」)。

 こうした設計者のニーズに対して、SoC FPGAの新しい課題も出てきた。一般的に単独で使用されている組み込みシステム向けプロセッサは、性能や機能の向上が急速に進む。その上、製品のバリエーションも多いため、設計者はシステムに最適なチップを選びやすい。これに対して、これまでのFPGAをベースとしたSoCは、ソフトコアプロセッサを中核としており、用途によっては性能面などでシステム設計者の要求に十分に対応できなくなってきたこともある。さらに、システム設計者にとって、これまで蓄積してきたソフトウェア資産を活用することが、システム開発の期間短縮やコスト削減を行う上で重要な項目となっている。

 そこで、FPGAベンダーは組み込みシステムへの応用を加速するため、その対応を進めている。例えば、アルテラは組み込みシステムの開発者に向けた取り組みとして「エンベデッド・イニシアチブ」を2010年10月に発表した(プレスリリース)。そして、これを実現するために、ハードウェア化されたARMプロセッサや高速インタコネクトのサポート、ハードウェア設計環境およびソフトウェア開発環境の整備などに取り組んできた。

 こうした成果の1つとしてアルテラは、ARMベースの「SoC FPGA」ファミリとそのシミュレーション・モデルを2011年10月に発表した(プレスリリース1プレスリリース2EE Times Japanニュース)。今回発表したSoC FPGAファミリは、28nm世代のローエンドファミリ「Cyclone® V」およびミッドレンジファミリ「Arria® V」をベースとしている。いずれもプロセッサとペリフェラルはハードIPとして集積されており、これを「ハード・プロセッサ・システム」と呼ぶ。最大800MHzで動作するデュアルコア構成の「Cortex-A9 MPCore」を中核としたもので、NEONメディア・プロセッサ・エンジン、単精度/倍精度浮動小数点演算回路、L1およびL2キャッシュ、ECC付きメモリ・コントローラ(DDR2/3、Mobile DDR、LPDDR2、NANDフラッシュなど)やUSB 2.0などの汎用ペリフェラルといった周辺回路も含まれている。このハード・プロセッサ・システムは、ピーク性能4000DMIPSを1.8W未満の消費電力で実現することができる。

125Gbps超のインタコネクトを実現

 アルテラの「SoC FPGA」ファミリの特徴の1つは、プロセッサ・システム部とFPGAファブリック部が高いスループット・データ・パスによって相互接続される点だ。その一例を図1に示すが、キャッシュメモリのデータのコヒーレンシを保ちながら、合計帯域幅が125Gbpsを超えるインタコネクトを実現することができる。

図1:プロセッサ・システム部とFPGAファブリック部間のインタコネクトは125Gbpsを超える帯域幅を実現
図1:プロセッサ・システム部とFPGAファブリック部間のインタコネクトは125Gbpsを超える帯域幅を実現
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 SoC FPGAを利用するメリットは、システム性能を高めるだけではない。プロセッサとFPGAを別々のチップで組み合わせてシステムを構成した場合に比べて、SoC FPGAは単一デバイスに統合できるため、消費電力を最大30%も削減することが可能となる。また、実装のための基板面積は最大55%も小さくでき、部品点数の削減などにより、コスト低減にもつながる。

 今回発表されたSoC FPGAファミリは、28nm製品ポートフォリオ技術を活用している。ハード・プロセッサ・システムをはじめ、マルチポート・メモリ・コントローラ、PCI Express Gen2ポート、可変精度DSPなど、多数のハードIPブロックが内蔵されている。このため、システムのトータルコストと消費電力を低減しつつ、設計期間の短縮も可能となる。主な特徴を表1に示す。これらの製品は、2012年の後半にエンジニアリングサンプル品の出荷が始まる予定である。

表1:Cyclone VとArria VをベースとしたSoC FPGAの主な特徴
表1:Cyclone VとArria VをベースとしたSoC FPGAの主な特徴
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 SoC FPGA製品の品種について、Cyclone Vはロジック容量でみると4製品(25/40/85/110KLE)、実装するトランシーバの違いで3タイプ(トランシーバなし/3Gbpsトランシーバ搭載/5Gbpsトランシーバ搭載)を用意している。同様にArria Vは、ロジック容量でみると2製品(350/460KLE)、実装するトランシーバの違いで2タイプ(6Gbpsトランシーバ搭載/10Gbpsトランシーバ搭載)を用意している。

「電力/産業機器」「HDビデオ」「通信インフラ」「コンピュータ&ストレージ機器」

 SoC FPGAの用途として、特にアルテラが期待している領域が4つある。例えば、スマート・グリッド、ソーラー・インバータ、モータ駆動などの「電力および産業機器」用途、および自動車の運転支援システムや車載インフォテインメント、IPカメラなどの「HDビデオ処理」用途向けにはCyclone VベースのSoC FPGAを用意している。また、LTE基地局やスイッチ&ルータなどの「通信インフラ装置」あるいは「コンピュータ&ストレージ機器」といった用途向けには、Arria VをベースとしたSoC FPGAを提供していく。

 図2にSoC FPGAを用いたモータ駆動の事例を示す。複数の産業用イーサネット規格にも、柔軟に対応することができる。図3ではHD IPカメラの信号処理回路にSoC FPGAを適用した事例を示す。2チップで行ってきた従来の処理回路を1チップに集積できるため、同じ実装スペースでH.265コーデックなどの機能を新たに追加することができる。

図2:モータ駆動への適応事例
図2:モータ駆動への適応事例
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図3:HD IPカメラの信号処理回路への適応事例
図3:HD IPカメラの信号処理回路への適応事例
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まとめ

 FPGAとプロセッサ・コアをワンチップに統合する「SoC FPGA」のアプローチは2000年ころに始まった。ここにきて、その動きは本格化しそうだ。微細加工プロセスの進展などによって、SoC FPGAを用いて顧客の要求を満たすことができる性能やコストが得られるようになってきたためだ。組み込みシステムのソフトウェア開発環境も大きな進化を遂げようとしている。後編では、ARMベースSoC FPGAの発表と同時にアルテラが提供を始めた仮想プロトタイピング環境「Virtual Target」などを例に、最新のソフトウェア開発環境を紹介する。なお、Virtual Targetのデモは明日より開始されるEmbedded Technology 2011(ET 2011)のアルテラブース(D-48)でも展示予定である。

この記事は、アイティメディア社『FPGA Insights』に掲載されていたコンテンツを、アイティメディア/EDN Japanの許可を得て転載しています。

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