FPGAの用途は、さまざまな電子機器に広がっている。その1つが民生電子機器であり、具体例として、大画面液晶パネルを使った高精細テレビやDVDレコーダー、プロジェクタなどを挙げることができる。また、電子ブックなどのモバイル端末にもFPGAやCPLDの採用が始まっている。本稿(前編)では主に液晶テレビなど映像機器におけるFPGAの設計事例を取り上げ、FPGAを使う有用性などについて解説する。

 FPGAの特徴はASICやASSPを用いた回路設計に比べて柔軟性が高いことである。電子機器の回路設計においては、その途中で急に仕様が変更されることも少なくない。機能の拡張や追加が途中で必要となった場合、ASICやASSPでは、チップが完成するまでの期間が、その分長くなることが多い。これに対して、FPGAを用いていれば、チップ完成までのロスタイムを最小限に抑えつつ、回路の変更も柔軟に対応することができる。

 また、採用するインタフェース規格など、製品企画の初期段階では流動的なこともある。機器に新たな機能を追加しようとしても、設計済みのASSP/ASICを流用しようとするとI/O端子数が不足することがある。これらのケースでも、FPGAを活用することで、機器設計者のニーズを満たすことが可能となる。

 このようなさまざまなFPGAの特徴が、コスト面で制限が厳しい民生電子機器の回路設計にも、強く求められるようになった。その一例として、高精細液晶テレビの画像処理回路について紹介する。

画像処理エンジン+FPGAで4k2k対応

 一般的に高精細液晶テレビの主な回路は、「メイン基板」、「パネル基板」、「インバータ基板」、「電源基板」などで構成されている。テレビメーカーにとっては、全体の機能をつかさどるメインコントローラ部や、表示する映像の画質にかかわる画像処理部の性能は、製品の差異化を行う上で重要な部分となる。このため、これらの基板に搭載される中核のICは、ASICやASSPとして自社設計したり、パートナーの半導体メーカーと協力して専用IC化したりするケースが多い。

図1:フラットパネル・ディスプレイ・ブロック図の一例
図1:フラットパネル・ディスプレイ・ブロック図の一例
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 しかし、このような専用ICは複雑な処理を高速で行う必要があるため、チップそのものが大規模化し、かつ最先端プロセス技術を使って設計されるため、開発の期間が長くなる傾向にある。このため、開発したICを機器に組み込む時点では、映像/画像処理能力が十分でなかったりすることもある。例えば、現行のフルハイビジョンテレビの約4倍の解像度を持つ「4k2k」(4098×2160画素)表示への対応である。3Dテレビに続く製品として、大手家電メーカーでは、4k2k表示に対応するテレビを2011年秋にもリリースする予定である。

 こうした次世代テレビでは、メイン基板に実装されるビデオボードに、自社開発した強力な画像処理エンジンを用いることが多い。しかし、それでも処理能力が十分でなかったり、性能向上のためにボード間のデータ伝送に、より高速な伝送規格が要求されたりする時に、FPGAを使ったソリューションが有効である。2011年3月に本サイトで公開したTop Story「FPGAの組み込み開発最前線(前編)」でも取り上げたが、FPGAを使うことによってハードウエア・アクセラレータによるデータの並列処理などを、柔軟かつ容易に行うことができる。これによって、機器の消費電力を抑えつつ、処理性能を格段に向上させることが可能となった。

インタフェース技術も次世代へ

 また、画像処理した映像信号を、メイン基板からパネル基板に伝送するためのインタフェース技術も進化している。現在は大型液晶パネルの標準仕様としてLVDS(Low Voltage Differential Signaling)が主流となっているが、一部では4k2k表示に対応すべく、LVDSの代替規格として1ペアあたり最大3.75Gbpsの高速伝送に対応した規格「V-by-One HS」などが提案されている。このようなインタフェース規格の技術進化や、設計上の仕様変更においても、FPGAを用いることで柔軟に対応することができる。さらに、FPGAベンダーの中には、IPコアとしてV-by-One HSをサポートしているところもあり、インタフェース設計を比較的容易にしている。

 大画面液晶テレビが本格的に普及しだしたころから、回路設計にFPGAが採用されてきた基板もある。それは、液晶パネルを駆動させるための回路を実装したパネル基板である。この基板にはメイン基板から映像信号を受け取るためのインタフェース回路や、PLL(Phase Locked Loop)回路、タイミングコントローラなどが実装されている。

 パネル基板では、ビデオボードから出力された映像信号に含まれるクロック信号を分離するためにPLLを用いる。ここで得られたクロック信号を基準として、タイミングコントローラが液晶パネルに映像を表示させるためのタイミングパルスを生成している。ところが、使用する液晶パネルは生産ロットによって、表示のタイミング特性が微妙に異なることがある。その特性誤差を調整するため、パネル基板側から液晶パネルの表示タイミングにあった信号を供給しなければならない。ここで使用されるタイミングコントローラをASICやASSPで開発してしまうと、生産ロットごとに異なる液晶パネルの特性に合わせて、何種類ものチップを事前に用意しなければならず、現実的ではない。その点、FPGAでタイミングコントローラの機能を実現することにより、液晶パネルとのマッチングをテレビの出荷直前までに行うことができる。

 これらの回路設計には、アルテラ製FPGAであれば「Arria®シリーズ」「Cyclone®シリーズ」などを用いることが多い。FPGAチップを選択する際には、PLLの数をどれくらい用いるが1つの目安となる。

 液晶テレビ以外の民生電子機器用途でもFPGAの採用事例は増えている。FPGAを使用する目的の1つがI/O拡張である。携帯機器なども含めて民生用電子機器では、コスト削減が大きなテーマの1つとなっている。このため、機器に搭載されるマイクロコントローラやASSPでは、単価アップの要因となるI/O端子数ができる限り少ない品種を用いることが多い。こうした中で、製品のモデルチェンジなどを行う際にユーザーインタフェースの機能などを拡張しようとしても、コントローラなどのI/O端子数が足りなくなることがある。この場合に、FPGAあるいは待機消費電力の小さいCPLDを使って、I/O数を拡張することができる。開発コストや開発期間に大きな影響を及ぼす可能性が高いマイクロコントローラやASSPなどを再設計なしで流用することができれば、最小の回路設計変更で新しい機能の追加が可能となる。

 このほか、製品の開発期間を短縮することが大きな命題となる民生電子機器では、その中核となるASSPの完成を待っていては製品の市場投入が遅れることもある。この場合は、ASSPで実現したい機能を、その基板に実装しておいたFPGA/CPLDに書き込んでハードウエアやソフトウエアの開発/検証を先行して行うケースも増えているという。

 本稿では、主に民生電子機器の代表製品である液晶テレビの主要回路におけるFPGAの設計事例を紹介した。後編では、産業機器におけるFPGAの設計事例を取り上げる。

この記事は、アイティメディア社『FPGA Insights』に掲載されていたコンテンツを、アイティメディア/EDN Japanの許可を得て転載しています。

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