今日、多くの産業機器のモーション/モータードライブコントロールの用途において、モーター制御の効率を改善することは重要な要件である。産業システムとその用途はますます複雑になり、市場競争に勝つために設計者がサポートしなくてはならない機能やオプションは確実に増えてきている。本稿前編では、モーター制御の基本などについて述べた。後編では設計者がFPGA技術とモーター制御用IP(Intellectual Property)を適用して、次世代のモーター制御システムを設計した場合の利点などについて解説する。

Jason Chiang
米Altera社 産業事業部門
シニアテクニカルマーケティングマネジャー

モーター制御にFPGAとカスタムIPを使用

 モーター制御は、非線形でパラメータが時間的に変化するアプリケーションであり、モーターと制御回路を流れる電流の本質的な高速動力学(fast dynamics)である。このため、効率的なソリューションを実現するには大量のコンピューティングパワーが必要となる。今日のMCU/DSPチップの多くは、単純化されたソフトウエア制御ループと、汎用パルス幅変調(PWM)ブロックを使用してモーター制御を実現している。しかしながら、これらのシステムアーキテクチャでは、高効率モーター制御を行なうために必要とされるパワーやパフォーマンスの最適化、または機能ブロックの統合を実現することができない。これに対してFPGAには、電力効率、パフォーマンス、安全性、信頼性、システムコスト、システム統合、実装の柔軟性といったあらゆる面で利点がある。図1に、FPGAを使った統合モーター制御システムの例を示す。

図1:FPGAを使ったモーター制御システムの例
図1:FPGAを使ったモーター制御システムの例
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電力面での利点

 どの電流制御方式でも、数多くあるPWM手法のうちの1つを使い、電圧の指令値で作動するのがその基本である。PWM手法では、電圧の指令値が時間平均値に一致するように電力変換器トランジスタ状態を制御する。この手法によってモーター内と電力変換器内の損失が低減されると同時に、DCバスの電圧使用量を最適化できる。

 FPGAを利用する最大のメリットは、これまでのMCUまたはDSPで固定されていたハードウエアをカスタマイズできることにある。FPGAでは、MCUまたはDSPベースのモーター制御チップ内の標準PWMブロックを、アプリケーション固有のPWM IPコアに置き換えることができる。このPWM IPコアは各モーターパラメータに基づくパフォーマンスとエネルギー効率に照らして最適化できる。図2は、MCUまたはDSPで使用される標準PWMと、その代わりに最適化されたPWM IPコアを組み込んだFPGAを使った場合の全高調波歪み(THD)の比較である。高変調指数で全高調波歪みがほぼ50%低減されることを示している。このような、より正確な制御によってモーター内の時間高調波損失を抑えつつ、可聴ノイズを減少させることで、モーター全体の信頼性が向上する。

図2.FPGAベースのモーター制御とMCUベースのモーター制御におけるTHDの比較(出典:Alizem)
図2.FPGAベースのモーター制御とMCUベースのモーター制御におけるTHDの比較(出典:Alizem)
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パフォーマンス、安全性、信頼性、システムコストにおける利点

 ハードウエアプログラマブルなFPGAを使えば、専用の高性能ロジック回路を容易に実装できる。モーターの電流とトルクの制御に専用ロジック回路を使用すると、汎用MCUまたはDSPで実行されるソフトウエアに比べ、モーター制御ループの演算を格段に高い周波数で実行させることが可能となる。また、モーターコントローラは、その動作中にモーターの調子に関する重要情報を取得し、その情報をメインのアプリケーションコントローラに送信して、モーターの不具合によって生じるリスクをユーザーに知らせることができる。

 FPGAにはシステムコストの面でも利点がある。モーター制御アプリケーションのパフォーマンスを向上させるためにFPGAを使用するメリットの1つは、コンポーネントと追加機能を柔軟に配置でき、メイン制御スキームと並列実行する演算処理部(DSPブロックなど)を統合することができる。モーター制御の性能を上げるこれらのファンクションは適応性があり、フィードバックループに対応させることもできれば、リアルタイムのモーターパラメータとステート予測によって速度/位置変換器なしで動作させることもできる。例えば、測定信号の調整のためにハードウエア内で最新DSP手法を用い、最適化されたDSP用ソフトウエアを1つのプラットフォームから別のプラットフォームに移植する労力を最小限に抑えることができる。

統合による利点

 FPGAを使用したハードウエアの設計プロセスは、ディスクリートコンポーネントを使った場合の設計とはまったく異なる。Altera社製FPGAの場合、統合のすべての工程が「Quartus II」 開発ソフトウエア内で行われる。このソフトウエアは、システムコンポーネントの動作を完全な仮想環境で統合・テストできるEDAソフトウエアである。このツールを使い、産業機器/システムの設計者はゼロから設計を始めることができ、動作可能な機器やシステムを短時間で完成させることができる。また、使用するコンポーネントの数を減らし、システムの複雑さを軽減し、システムの信頼性を向上させ(システムコンポーネントが少ないため)、すべての設計のパフォーマンスと価格に合ったカスタマイズ可能なモーター制御システムの構成を予測することができる。

モーター制御IP

 モーター制御IPは、非常に高性能な、互換性のあるプラットフォームを提供するために設計された。アプリケーションで使用する実用的なモーター制御IPは、IPの適切な組み合わせを選択でき、それらを統合することによって実現される。柔軟性に優れたFPGAは、様々な通信プロトコル、モーター制御IP、産業I/Oインターフェースを1つのデバイスまたはプラットフォームでサポートできる。

 MCUまたはDSPチップでこうした機能を実装することは不可能である。さもなければ、設計者にモーター制御パフォーマンスまたはシステムパフォーマンスのどちらかを妥協させることになるだろう。一方、FPGAではこれらの機能が完全に独立しているため、プログラマブルロジックのハードウエアで並列実行できる。FPGAベースのモーターコントローラは、逐次的に命令を実行するMCUやDSPでは成しえない圧倒的なパフォーマンスを実現し、製品の信頼性を高めることが可能となる。

 モーター制御IP(およびネットワーク接続機能)をFPGAに実装することのもう1つの利点は、製品が陳腐化するリスクを軽減できることである。設計者はFPGAが産業的な寿命やシステムの柔軟性、信頼性を念頭において構築されているという認識の上で、安心して開発作業を進めることができる。システムを修正することも、次世代のFPGAに移行することも簡単だ。この点がMCUまたはDSPチップとは対照的である。MCUやDSPチップであれば多くのソフトウエアリソースを必要とし、ハードウエア機能をアップデートするには新しいプロセッサアーキテクチャに移行しなくてはならないために長い開発期間が必要となる。

 FPGAベースのモーション/モータードライブコントロールを産業機器に適用することで、MCUベースやDSPベースのシステムでは成しえない高い柔軟性と生産性を実現できる。FPGAを使えば、タイミングに厳密なタスクをハードウエアで処理する一方で、柔軟なシステムを構築することができるため、システムパフォーマンスが向上する。結果的に設計のやり直しが減り、設計者は従来のMCU/DSPベースの設計よりも早くソリューションを完成させることができる。FPGAをモーター制御アプリケーションに使用することで、設計者は特定のアプリケーション要件に容易に適応することが可能となる。

この記事は、アイティメディア社『FPGA Insights』に掲載されていたコンテンツを、アイティメディア/EDN Japanの許可を得て転載しています。

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